さす

さす
I
さす
(助動)
上一段・上二段・下一段・下二段・カ行変格・サ行変格活用の動詞の未然形に付く。
※一※使役の意を表す。
(1)動作を他にさせる意味を表す。 させる。

「(雪ハ)侍ども遣りて取棄て〈させ〉しぞ/枕草子(九一・能因本)」「御格子ひとまばかりあけて御車寄せ〈さす〉/狭衣 4」

(2)動作・作用が行われることを許可する, あるいはそのまま放任する意を表す。 そのままにする。 させておく。

「あながちに隠して心安くも御覧ぜ〈させ〉ず, なやまし聞ゆる, いとめざましや/源氏(絵合)」「山里は人こ〈させ〉じと思はねど訪はるる事ぞうとくなりゆく/新古今(雑中)」

(3)中世の武士言葉で, 受け身の意味に用いることがある。 られる。

「兼綱うち甲を射〈させ〉てひるむところに/平家 4」

※二※待遇表現に用いられる。
(1)尊敬の意を表す語を下に伴って, 尊敬の意味を表す。

「御渡りの事ども, 心まうけせ〈させ〉給ふ/源氏(早蕨)」「是ひとへに愚老を助け〈させ〉おはします御孝行の御いたりなるべし/平家 1」

(2)謙譲の意を表す語に付いて, 謙譲の意をさらに強める。

「いとかたじけなく, 立ち寄らせ給へるに, みづから聞え〈させ〉ぬこと/源氏(若紫)」「さるべき職事蔵人などしてぞ奏せ〈させ〉給ひ, うけたまはり給ひける/大鏡(頼忠)」

〔(1)「さす」は「す」と接続の上で相補う関係にあり, 四段・ラ行変格・ナ行変格活用の動詞には「す」が用いられる。 (2)※一※の意の場合, 中世末から近世にかけて, 四段化した例もある。 「ものやなんどを悪うして失せ〈さし〉たり/勅規桃源抄 3」「分在に過たる願は得〈さし〉がたし/咄本・露が咄」(3)※二※の意には, 未然形・連用形以外の活用形は用いられない。 (4)「さす」は漢文訓読系の文章には用いられず, 和文にのみ用いられた〕
II
さす
焼き畑のこと。 もと武蔵国に多くある「指谷(サスガヤ)」という地名はこれに由来するといわれる。
III
さす【刺す】
(1)細長くて先の鋭い固い物を, 他の物の中に無理に突き入れる。 つきさす。

「注射針を腕に~・す」「指にとげを~・した」「短刀で人を~・す」「暴漢に~・される」「団子をくしに~・す」「とどめを~・す」(ア)(「螫す」とも書く)虫が人の肌に針を突きたてる。 「蜂に~・される」(イ)ひと針ひと針縫う。 「雑巾を~・す」

(2)(「差す」とも書く)船を進めるために, さおを水底に突き立てる。 また, 舟を進める。

「さおを~・す」

(3)とりもちを塗ったさおで小鳥や虫を捕まえる。

「鳥を~・す」

(4)野球で, 走者をタッチ-アウトにする。

「牽制球で一塁のランナーを~・す」

(5)目・鼻・舌・皮膚などに鋭い刺激を与える。

「明るい太陽の光が目を~・す」「異様なにおいが鼻を~・した」「寒気が肌を~・す」

(6)糸やひもで, いくつもの物を貫き通してまとめる。

「おどろきて御紐~・し給ふ/源氏(浮舟)」

‖可能‖ させる
︱慣用︱ 釘を~・止(トド)めを~・流れに棹(サオ)~
IV
さす【叉手】
(1)「さしゅ(叉手)」に同じ。
(2)「扠首(サス)」に同じ。
V
さす【差す】
〔「刺す」「指す」「挿す」などと同源〕
(1)(「射す」とも書く)光が入り込む。 日光が当たる。

「窓から日が~・す」「雲の切れ間から薄日が~・す」「後光が~・す」

(2)相撲で, 自分の腕を相手の腕と胴の間に入れてまわしをつかむ。

「立ち合い一気に左を~・す」

(3)相手に酒をすすめる。

「杯を~・す」

(4)(「点す」とも書く)ある部分に色をつける。

「頬に紅(ベニ)を~・す」「口紅を~・す」

(5)(「点す」とも書く)漢文の文章に, 句読点や訓点を書き入れる。 加点する。

「声点(シヨウテン)を~・す」

(6)手を, 上または前のほうに出す。 (ア)頭をおおうように傘を持つ。 かざす。

「日傘を~・す」(イ)舞で, 手を前に伸ばす。 「~・す手引く手」(ウ)両手で物を高く上にあげる。 さしあげる。 「イシヲ~・ス/ヘボン」

(7)潮が満ちてくる。

「潮が~・してくる」

(8)色が現れる。

「頬に赤味が~・してきた」「血の気が~・してくる」

(9)(「熱がさす」などの形で)熱が出る。

「くだりも留(トマ)りませず, 大ねつが~・しまして/浮世草子・織留 4」

(10)ある気持ちが生じる。

「嫌気が~・す」「眠気が~・す」

(11)姿がちらりと見える。

「木立ちの間に人影が~・す」

(12)(「気がさす」の形で)うしろめたい気持ちになる。 気がとがめる。

「居留守を使うのは気が~・す」

(13)(「魔がさす」の形で)心に魔物がはいり込んだかのように, 一瞬, 悪い考えを起こす。

「あんなことをするとは魔が~・したとしか言いようがない」

(14)物差しで寸法を測る。

「丈を~・して見ると八尺足りなかつたり/西洋道中膝栗毛(魯文)」

(15)机・箪笥(タンス)・箱などを作る。

「松の木の箱を~・して/浮世草子・武道伝来記 1」

(16)(「止す」とも書く)動詞の連用形に付いて用いる。 (ア)動作を中途でやめる意を表す。 …しかける。 …し残す。

「おのおの親ありければ, つつみていひ~・してやみにけり/伊勢 86」(イ)動作が中途でやんだままの状態であることを表す。 …しかかる。 「しばし入り~・して/源氏(宿木)」

〔現代でも, 「用もなき文など長く書き~・してふと人こひし街に出てゆく/一握の砂(啄木)」などのように, 時に用いることがある。 → さし(止)〕
(17)印を押す。

「私に太政官の印(オシデ)を~・して事を行ふ/水鏡(廃帝)」

(18)さしつかえる。 さしさわる。

「いや, 事介は少お寺に~・す事有る/浄瑠璃・薩摩歌」

(19)物を組み立てる。 また, 張りめぐらす。

「ほととぎす鳴くと人告ぐ網~・さましを/万葉 3918」

(20)帯やひもをしめる。 むすぶ。

「(名高イ御帯ヲ)しひて~・させ奉り給ふ/源氏(紅葉賀)」

(21)草木の葉や枝が伸び出す。 茂って物をおおうようになる。

「西の方に~・せりける枝のもみぢ始めたりけるを/古今(秋下詞)」

‖可能‖ させる
︱慣用︱ 気が~・潮が~・熱が~・魔が~
差しつ抑(オサ)えつ
酒杯をさしたり, 相手のさしてくれるのを押し返してすすめたりして酒を飲む。 盛んに杯をくみかわす。
差しつ差されつ
酒杯を相手にさしたり, 相手からさされたりして酒を飲むさま。 盛んに杯をくみかわすさま。 さしつおさえつ。
VI
さす【扠首】
棟木(ムナギ)などを支えるために合掌形に組んだ材。 民家の屋根, 社寺建築の妻飾りなどにみられる。
VII
さす【指す】
〔「刺す」と同源〕
(1)人・物や方向を, 指などによってそれと示す。 (ア)指などをその方へ向けて, 人・物や方向を示す。

「ほしい品物を指で~・す」「駅のほうを~・して教える」「時計の針が五時を~・す」(イ)特定の人を指名する。 名指しする。 「英語の時間に二度~・された」(ウ)特定の事物や事態をとりあげて示す。 指摘する。 「あの非難は明らかに我が党を~・してなされたものだ」「三行目の『それ』は文中のどの語を~・していますか」(エ)密告する。 「違反建築で~・される」

(2)ある方向へ向かう。 めざす。

「白鳥は北を~・して飛びたった」「都を~・して歩き続けた」「限りなき未来を~・して進む」

(3)将棋で, 駒を進める。 また, 将棋をする。

「将棋を~・す」

(4)派遣するために指名する。 また, 役目を与えて派遣する。

「勅使少将高野のおほくにといふ人を~・して/竹取」

‖可能‖ させる
︱慣用︱ 後ろ指をさされる
VIII
さす【挿す】
〔「刺す」と同源〕
(1)細長い物を他の物の間に入れる。 (ア)髪に, 櫛(クシ)・かんざしなどを入れる。

「髪に花を~・す」(イ)(「差す」とも書く)刀などを帯の間に挟み入れる。 「大刀を腰に~・す」「矢立てを腰に~・す」

(2)挿し木をする。

「サツキを~・してふやす」

(3)挿し花をする。

「花を花瓶に~・す」

(4)用意された入れ物などに収める。 物の中に入れ込む。

「手紙を状差しに~・す」

‖可能‖ させる
IX
さす【注す・点す】
〔「刺す」と同源〕
(1)液体を注ぎ入れる。 (ア)器の中の液体にさらに少量の液体を加える。

「煮立ったら水を~・す」(イ)少量の液体をある部分に注ぎ込む。 注入する。 「歯車に油を~・す」「目薬を~・す」

(2)火をつける。 点火する。

「父豊浦の大臣家に火を~・して焼死ぬ/愚管 1」

‖可能‖ させる
︱慣用︱ 水を~
X
さす【砂州・砂洲】
海岸や湖岸にできた砂堤。 砂嘴(サシ)のさらに発達したもの。 潮流・風や河川の運んだ土砂がたまってできる。 例, 天の橋立・弓ヶ浜。
XI
さす【鎖す】
〔「刺す」と同源〕
錠・戸口・栓などをしめる。 とざす。

「門も~・さるる頃なるべきに/うたかたの記(鴎外)」


Japanese explanatory dictionaries. 2013.

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